神奈が壁に寄りかかる。
その時に細められた瞳の奥は頼もしく、改めて私とは違う世界で生きてきた人間なのだと悟った。

何に関しても覚悟を抱く強さを、彼女達は生まれた時から持っているのだろう。地上という、緩み切った命を軽んじる世界とは似てもにつかない。



「……毎日つまらない知識を頭に植え付けて、穢れを知らない世界で生きるのは楽だった」


敷かれたレールを進んで、そのまま行けば自分の居場所も進んで行く道も、全てが安寧で包まれていて。どれだけ"幸せ"なのか計り知れない。

────それでも私は人とは感性の部分からしてずれていた。


「皆は笑ってるのに全然笑えなかった。偉い人たちが定めた法律に縛られて、何が楽しいんだかわからなかった」

「…月ちゃんには物足りない世界だったんだね」

「うん。だから私、アルトに会えてよかった。本人には言わないけど、私生きてるんだなーって、思うから」



数日間しか過ごしていないのに、私は心から笑えてる自分に気づいた。

汚れを知る事は、苦じゃなかったんだ。
世界が広がる事がこんなにも素晴らしいのだと、この世界にきて、彼と行動を共にして初めて理解した。


「アルトじゃなきゃ、多分私は生きることを蔑ろにしてたと思うよ」


それほどまでに私の虚無感は私を追い込んでいた。そしてなにより、アルトの存在は私の中で大きくなりつつあるんだ。