「最近はね、凄いのよ。益々治安が悪くなっちゃって。」
やだねー、と他人事の言うように言う彼女は見た目と中身のギャップが大分激しい。アルトも心なしか飽きれているような素振りだ。
「取り敢えず、これみて欲しいの」
彼女が案内し指差したのは、地面についた汚れだった。これは…と隣でアルトが呟いたのと同時に神奈が口を開く。
「月ちゃん、触ってみる?」
「え」
「神奈。コイツはそーゆーのに慣れてないから。やめとけ」
「どういうこと?」
「この間地上から堕ちてきた人間なんだよ」
「!」
驚愕したのは一瞬で、長い睫毛を伏せた彼女はそう、とそれだけ言って、困ったような表情をした。
「なんだか複雑なのね、そっちも」
「全くだ。面倒事が増えてしょうがない」
「……怒るよ」
冗談を言いあった後、私たち三人は汚れた地面を囲んだ。
それは泥、というより血飛沫の痕と言った方が近い。
「誰か殺されたのか?」
「つい最近よ。悲鳴が聞こえたから此処にきたら、男が真っ二つにされて倒れてたわ」
「…真っ二つ、」
「最近多いの。調べたけど、誰も目撃者はいない。深夜でいう三時くらいかしら」
赤黒く濁ってしまうそれからは、ほんの少し血液の臭いが漂っていた。無意識に顔を逸らすと、怖い?と頭上から声がした。
「……怖くはないけど」
「ないけど?」
「不自然、かなーって」
興味心身に彼女は私に何故?と問いかけてくる。私は戸惑いながらも血飛沫の痕を指差した。
まず可笑しいのは明らかに血の量が少ないことだ。真っ二つに引き裂かれたというのならもっと出血痕があってもいいはず。
「あと、可笑しいのは血の痕かな。ほらここ。血が続いてる」
アルトと神奈が月の示した方を見ると確かに血の痕が長く伸びていた。
「引き摺られた痕、かな…」

