地下世界の謀略






油断した、と思う頃にはもう遅かった。


「どうせアルトのことだから何にも言ってくれなかったんでしょ?」

「離して、もらえません?」

「可哀想な月ちゃん。一人ぼっちだね、君は」

「……っ、ちょっと!」



男に免疫がない、などという次元ではない。

羞恥心より恐怖心が勝る今、彼の拘束は耐えられそうになかった。
身を捩り解放を試みても、断固として彼の手は離れなかい。むしろエスカレートしていくばかりだ。



「…アルトはねー、寂しい人間だよ。きっと君よりも一人ぼっちだ」

「な、に……?」

「彼が君を拾った理由、分かるよ、俺」



私の顔を覗き込んで、顔と顔が接触してしまいそうな距離。銀髪が額を擽る。


(嗚呼、なんだこの体たらくは)

気持ち悪いと思うのにされるがまま、彼の言葉の続きが気になって動かない。



「可愛いね、月ちゃん。動揺してる」

「…動揺、なんかしてない」

「嘘だー。だってほら、ここ、凄い脈打ってる」


眞田の手のひらが胸に置かれた。

きっとこの男は体内の心臓の動悸を確かめているのだろうけれど、やってること自体はセクハラだ。


衣服から伝わる感触が心地悪すぎる。



しかし、次の瞬間彼は私の首に両手を回した。


(一瞬のことに、何が起きたか分からなかった)