(きっと、この子達の存在は大きい)
でなければ、この純粋な子供達の心を掴むことはできないだろう。
「アルト兄ちゃんはね、すっごく強いんだよ!」
「俺たちのヒーローなんだ」
「ヒーロー?」
「えっとね、お兄ちゃんがね、貧民街にいた凛子達を拾ってくれたの」
凛子ちゃん達の話によれば、この先にある貧民街で毎日餓死する人間がいるのだという。
地下世界でも特に劣悪な環境にあるそこで、アルトはまだ5歳程だった凛子達を連れ出し理貴さんの元へ預けた。
(生きたいならついて来い)
そう言って、彼等の手を繋いだアルトは彼等にとってヒーローに値する存在だったのだ。
「ヒーロー、か」
私が知ったアルトとは程遠い存在だな、と思いながらもどこか納得する部分もあった。
私をここまで連れて来たのも、他ならぬ彼なんだから。
「……あ!お兄ちゃん!!」
凛子ちゃんが駆けていく。
やっと来たか、と思うより先に私は違和感を感じた。
(…あれ?)
凛子ちゃんが走って行った方向は、本堂の方ではない。
さっき私がいた樹木の下、よく見れば、確かな人影がある。しかし、強かな風に揺れるのは彼の綺麗な黒髪ではなかった。

