実際一つの理由ははっきりしている。
しかしその他には?
自分は軽率に行動する人間ではないと分かっているし、自分の身を危険に近づけるようなことは絶対にしない。
それだけの理由で彼女を拾ったなんて、自分でも信じられないのだ。
────自分が分からないことをどうして他人に答えることができようか。
(本当に、むしゃくしゃする)
「……話を戻そう」
アルトはこの話を振り払うべく、無理矢理話を断ち切った。一方の理貴もやれやれと言うばかりで、話を掘り返そうとはしなかった。
「なんだっけなあ。君、俺に頼みかあったとかなんとか…」
「そう。正しくは依頼、だ」
やっぱり彼女をここに連れてくるべきではなかったのかもしれない。
本題に入るまで偉く時間がかかってしまっている。
と思いながらも、また自分を取り乱す彼女に思考を奪われた自分に自己嫌悪する。
「………、簡単なことだよ、アンタには」
「何かな」
「荊を見張っておいてほしい。監視とも言えるけど」
「……何が簡単だ。骨が折れる仕事じゃないか」
「そう言うなよ。琉達だって被害に合うかもしんねえんだぞ」
最近活発になってきた荊の動きは、異常だ。
以前は数週間に一回の徘徊が最近では一週間に何度もある。
(……何かに焦ってやがる)
それも見込んで、詭弁すらもろともしない理貴に監視してもらっておいた方が、此方も動きやすいのだ。
「なにかあったら俺に言ってほしい」
「……まあ、昔ながらのよしみだしね。いいよ」
「頼む。依頼費は弾むから安心してくれ」
「まったく、最近の子は金とかなんだ言って、君らの時期ってあれだろう?恋とか…」
「………なんの話だよ」
こうして一応の示談は終了したのだが、理貴の雑談は暫く終わりそうになかった。

