────閉まる扉の軋んだ音が、小さく部屋に響いた。
アルトは珈琲の上に浮いてきたミルクの泡を散りばめるように、片手でぐるぐると回す。
理貴はその光景を見て、小さく吹き出した。
「…何」
「いや、君動揺してるね。落ち着かないのがバレバレだよ」
「なん」
「なんで分かるかって?私が何年"情報屋"をやって来たと思ってるのかなあ、君」
「…そうだったな」
何年もこの職をしていると、自然と人の気持ちも読めるものだよ。
────そう、この理貴という男は地下世界の所謂"情報屋"。
彼がまだ若い頃、地下と地上の情報量に関して彼を越えるものはいないとまで謂われていた。
40を越えた今は、引退した身であるがアルトは今もなおこの男に頼り続けている。
「良かったのかい?」
「……」
「きっと彼女、落ち込んでるよ」
この部屋を出て行く前、月がずっとアルトを見ていたことに彼は気付いていた。
知らぬふりを通していたが、きっと彼女は曖昧に答えられた問いの答えに納得できていない。
「君の利害って、何かねえ」
「………」
「答えないなら勝手に想像するからね?」
アルトは決して口を割らなかったが、実際彼は答えなかったのではない。
(答えられなかったのだ)
「……分からねえよ」
ぎり、と無意識に歯を食い縛った。

