「兎に角、俺はあいつらから逃げ切んなきゃならねえ」
「…逃げ切れるの?」
「さあな。それは分からない」
軽薄に見えるように肩を竦めるアルトに、私は不安で堪らなかった。
────死体廃棄場でアルトに会った時、迫り来る機械音と殺意の籠る声が背筋を凍らせていた。
あんな恐ろしい影から逃げ切る為には、私を拾っている暇なんてなかったのだと今になってみて漸くはっきりする。
(お荷物とは、こういう意味か)
「…なんで、私を拾ってくれたの」
───私を拾うほどの"余裕"が彼にはないのに。
大変な状況にあるなんて知らなかった。
なんて、言い訳でしかない。
「……利害が一致したから、かもな」
そんな曖昧な言葉を溢されて私が黙ると思ったのだろうか。そうであれば彼の思惑通りになってしまうが、結局私は何も言えなくなってしまった。
(、もう何も語ってはくれなそうだ)
月は静かに立ち上がり、アルトと理貴に向き合う。
「終わるまで外で待ってます」
「…申し訳ないね、月さん」
「いえ。……じゃあ、アルト。待ってるね」
アルトが月を見つめたまま頷くと、それには何も反応せずに月は踵を返して部屋を出ていった。

