「……荊?」
ふと浮かんだ言葉を言ってみると、理貴さんが目を見開いた。
「…君、よく知ってるね。地上の人間達は知らないはずの機関なのに…」
「ここに来る前に、アルトが…」
「なるほど。そう考えれば、月さん。君は強ちこの世界をなにも知らない、ってわけではないよ」
────荊はこの世界の、ある意味の"中心"だからね。
私が知っているのは、荊が何をしているのかと、アルトに酷い仕打ちをしたこと。 だから理貴さんの言うことは信憑性に欠けるが、どうやら荊は誰にとっても悪い意味で、大きな存在らしい。
「荊という機関は…唯一逃がした"実験体"を追ってる。誰がそう仕向けてるのか分からないけどね、目的も」
つまり、全ては謎に包まれているって事で。
「……っ」
不意に、思い出したのは彼の身体の傷。
肌を駆け巡る傷跡と烙印が目蓋に焼き付いて離れない。
───もしかして、アルトが探してるいるのは荊を動かす人間?
(復讐、とか)
「違うから」
「え………いっ、痛!」
突然アルトが頬肉をつねってきた。
何が面白かったのか、縦に伸ばしたり横に伸ばしたりして私の反応を楽しんでいる(ように見える)。
「なんでアンタそんな顔に出んだよ」
「そ、んなことっ」
「ある。……俺がアイツ等に復讐なんかしたってしょうがないだろ」
パッと指が離れると、後になってじんわりと痛みが頬を襲ってきた。
同時にアルトの顔が思いの外近く、顔に熱が灯るのを感じた。

