苛々をなるべく押さえながら私はアルトの裾を引っ張った。
「ねえ、余裕ってなに?」
「……」
「アルト」
まるで無垢な世間知らずの子供のような自分。
それを恥ずかしいとは思わなくても、このまま彼らの話についていけないまま過ごすのは絶対に嫌だった。
「秘密ばっかりは、やだ」
昨日と一緒だ。
荊を知らない私を無視して話を進めていくアルト達に腹が立った。
(置いていかれていることが、怖いと思う)
───不安が片時も離れてはくれなくなって、独りだと再確認させられる。
(この世界に堕ちたとき、それを受け入れようとしたのに)
「…月さん。彼はね、追われているんだよ」
やんわりと微笑んでそう言ってくれたのは、アルトではなく理貴さん。哀れだと思われたのか、どうでもいいけれど、こうやって話して貰えるのはありがたかった。

