「…それでも俺は探すさ」
(廃れた世界がなんだろうとも)
拳を握りしめてアルトは誰かに言い聞かせるように、言った。
その瞳に、渇望を交えながら。
「──時に、月さんは君は何故ここに?ここをよく知らないようだけど」
「あ、えっと…」
「逃げてるときにたまたま、な」
私が経緯を説明する前にアルトが口を挟んだ。
「アルトが人を保護するなんてよっぽどだよ」
「そう、なんですか?」
「ああ。彼には"余裕"がないからね」
「………?」
───余裕がない、というのは精神的な余裕だろうか。
不思議と頭を傾けていると、アルトが深くため息をついた。
「余裕とかの問題で拾ったわけじゃねえよ」
ちらり、と理貴さんに目配せしてしているアルトを見て、何故だか不愉快な気持ちになる。
いや、本当はその理由ははっきりとしていた。
(──彼らが、何も教えてくれないから)
ここに来て、初めて欲というものが出来た。
この世界の人間ではなかった私が、彼とこの世界とを知り求めようとするのはルール違反だろうか。そう思っても、私はもう上には戻れないのだが。
だがせめて、この話の筋くらい教えてくれたっていいじゃないかと思う。
そもそも、よそ者である私の手を握ってくれた理由すら私は知らないのだから。

