ぽっかりと穴が空いたように、記憶が飛んでいた。堕とされた経緯だとか、一番知りたいことがなにも頭に残っていない。 ───唯一焼き付くように覚えているのは、卑しく嘲笑う人間の顔。 顔は何故か、霧がかかったようにぼやけていて思い出せなかった。 「………馬鹿みたい」 もうそんなこと考えたって、上には戻れないのに。 かつん、かつん、と己の足音が月を孤独にし、いたたまれない孤独を感じてしまう。