「んな珍しいそうな顔すんなよ、お互い様だろ」

「…そうだけど。アルト、何て漢字?」

「漢字なんか知るか」

「知らないなんて事ないでしょ、親はなんて?」


「───いねえよ、そんなもん」



月はハッとして言葉を閉ざした。

そして自分の無神経さに呆れた、この部屋の生活感のなさから、彼に親のいない可能性なんて十分に考えられたはずなのに。


「そんな顔すんな、別に気にしてないから」

「……ごめ、」

「だからいいって。謝んな」


彼は本当に何とも思っていないような態度で依然として私を見下ろしていた。
月もこれ以上触れないようにと、表面上は冷静に話を切り替えた。


「アルト、って呼んでもいい?」

「…はっ、それ以外になんて呼ぶんだよ」


変な女。



───出会って初めて見た微笑みに私は、呆気にとられてしまった。



いや、見惚れたのだ。

彼の整いすぎた顔に浮かんだ、この世界には贅沢すぎる笑顔に。



「……きれい」


「は?」

「貴方の笑顔、凄い綺麗なんだね」



今度はアルトが度肝を抜かれたような顔をした。酒を扇ぐ手が止まってしまっている。

月はそれに気付かず話を続けた。



「アルトって名前も………って、なに、どうしたの?」

「…あ?いや、なんでもない」

「ならいいけど」



アルトの無意識の動揺は月には通じなかった。