「ねぇ、君。」


「はい・・・?」


アリスが忘れられて、四年。


アリスは草原が広がる小川の隣で
一人、本を読んでいました。


「君、アリスって言うんでしょ?
この村のことをなんでもお見通しな美人さん!
俺のこと、知ってる?」


・・・・


アリスはもちろん彼のことを知っていました。



「リファー・・・」


「おお!さすがだね!」


するとリファーはアリスの隣に座り、
アリスに話しかけてきました。


「この村に来て四年なのに、よく知ってるよね。
特に、ジェシーや、ココレットのこととか
キャロット一家とか!」


・・・



リファーは、アリスの遊び仲間の一人でした。


リファーは顔が茶色くて、元気で活発な子で

よくアリスと気があっていました。




しかし、そんなリファーも、
アリスのことを覚えてなどいませんでした。



「あ!俺もその本好きだよ。
気が合うねぇ!」



リファーはアリスが呼んでいた本を指して、

ニンマリと笑いながら言いました。



・・・・


「君、美人だけどあまり笑わないよね・・・」



そういうとリファーは悲しそうにアリスから目を背けました。






すると、リファーふと思い出したように

「・・・そういえば、君の苗字って何?」











ここは、村でも有名な市場。


そこに有名なお店がありました。


店の名は〈キャロット〉。


キャロット一家という農家が営業しているお店でした。


そこには、村一番の美人なリリアという一人娘がいました。


そんなリリアも今年で十九歳。


来年には二十歳になります。






「へーい!よっといでよっといで!
甘味がたっぷりの新鮮な野菜だよ!!」


「お父さん、へーいだなんて変な声掛けしないでよ。」



「ああ、すまんなリリア。」


「あ、こんにちは。キャロットさん、
リリアさん。」


「あら、リファーじゃない。
どうしたの?」



リファーとキャロット一家は、昔からの知り合いでした。

リファーはアリスを連れてキャロットまでやってきました。



「ほらみて。
この子、知ってるでしょ?」



リファーは、うつむいて静かなアリスを
紹介するように言いました。

しかし、アリスは顔をあげようとしません。



「ああ、知っとるとも。
リリアには負けるが、とても美人な娘の
アリスちゃんだろう?」


「やめてよ!お父さん!!」


そう言いながらも、リリアは少し嬉しそうでした。



「実はさあ、この子と、たまたま小川の隣であったんだよね。
そして、いろいろ喋ったんだ。」


「別に、イロイロは喋ってないわ。」



アリスが不機嫌そうに頬をふくらませながら答えました。



「あ、あそうか。」



キャロットさんは少し戸惑い気味でした。



「で、この子に苗字を聞いたんだ。
そしたら、なんて言ったと思う??



キャロットって言ったんだよ・・・!」




するといきなり、キャロットさんが



「すまんリファー、今日は帰ってくれないか?
・・・仕事に集中したいもんでね」




「え・・・でも・・・・」




「いいから帰ってくれ!!!」




キャロットさんはリファーに怒鳴りつけました。
顔が青ざめています。
まるで、恐ろしいものを見たような目で、
リファーやアリスを睨みつけます。



「え・・・・
す、すいません・・・
いこう、アリス!」


リファーはアリスの手を引きながら、遠くへ走っていきました。









「はぁ・・・はぁ・・・・」



「お父さん、あんなに怒鳴ることないんじゃない?
・・・息が上がるぐらい・・・どうして?」




すると、キャロットさんはぐったりしながら



「あの子は・・・

四年前にいきなり現れてから、

私たちの家まで歩いてきては、

ただいま!

と言って無断で家に入ってきて・・・

注意したら、

まるで、

私たちと家族のような言い方をしてきた・・・・」


「お父さん・・・」


「私たちの事をなんでも知っていた・・

誕生日や、血液型、好きな食べ物まで・・・。

気味が悪くて追い出したっていうのに、

なんで同じ苗字だと言い張るんだ・・・?

あいつは、一体何者なんだ?」




「知らないわ・・・
あの子、なんなのかしら」






















「なんでキャロットさんはいきなり怒ったんだ・・・?」


リファーとアリスは、小川まで走ってきました。

二人とも息が上がっています。




「・・・きっと、同じ苗字だから怒ったんだと思うわ・・・」



アリスがつぶやくように言いました。


「なんで同じ苗字ってだけで怒るんだい?」



「・・・きっと私が、キャロット一家のことを
なんでも知ってるからだと思うわ。。。

知らない人が、自分たちのことを
なんでも知ってる上に、苗字まで一緒だなんて
あなたでも気味が悪いでしょう?」



アリスは微笑みながら言いました。



「・・・やっと笑ってくれたね。」


リファーはつぶやきました。


「君、笑っていたら、とても可愛いのに・・・。」



そう、リファーがいったので、アリスは驚きました。

リファーはあまり女の子を可愛いと言いません。


リファーがアリスの顔をじっと眺めながら、



「綺麗な青色の目をしているし、
腰まで伸びている綺麗な金色の髪の毛も
とても綺麗だよ」



リファーは少し頬を赤らめながら、笑顔で言いました。



「・・・
ありがとう、リファー。

・・・みんな、私のこと知らないから」



「え!みんな知ってるよ!
もう、ここに来て四年も経つんだよ!?
君は美人だし、なんでも知ってるから・・・・」




「いいえ、みんな私のことを知らないわ」


アリスは、リファーの言葉をさえぎって

林の方へ走って行きました。



「アリス!!!」



リファーは追いかけようとしましたが、
アリスは見えなくなっていました。





―――そう、みんな知らないの。
私のことも、うさぎのことも。
みんな、知らない・・・・