博恵は、右手で宏の左手をつかんでは、強引に立たせた。外へと、連れ出そうとする。

宏「何を、するんだよっ」
 宏は、怒り出す。

博恵は、ドアに左手をかけ、開けようとして連れ出そうとする。

 所内全部が、充満した。怒っている宏の顔。宏の全身が、白く光る微粒子物質に覆われた。

 宏の顔が、その物質に覆われた。口、鼻、耳が、その微粒子に覆われた。2つの目だけが、残された。

 左目が、とうとう隠された。右目だけが残った。

 宏は、右目をパチクリ・パチクリさせた。まばたきだ。最後の悪あがきであろうか。

そうして、最後の肉体の右目も、白く光る微粒子物質によって覆い尽くされるのであった。所内は、真っ白になった。

残されたのは、博恵と宏の行動する音だけだった。
ドアが開けられる音が、聞こえる。

宏の声「おいおい、ちょっと、待てよっ」
 ドン、バタン。ドアが閉まった。

2人は、外へと出て行ったようだ。
 所内は、真っ白に輝いている。

信号機
 真っ白な世界から、次第に色が着色されて行った。にぎやかな渋谷色に、染まって行った。

 青は踊っていない。青く光っていない。

 赤が、直立不動のままで赤く光っている。どうやら、魔法が終わったようだ。

白い光りの世界は、消えている。正常な信号機に戻っている。