派出所内
扇風機の風に当たりながら、アルバイト情報誌を読んでいる宏。昼間から、勤務中なのに、缶ビールを飲んでいる。

FAX電話機から、声が聞こえる。
先輩の声「宏ー、元気に働いているかー」

受話器不要のコードレスフォンだ。

宏「先輩、そっちの現場検証、何時頃、終わりそうですか?」

先輩の声「結構、長引きそうなんだ。しばらくの間、1人で留守番頼むぞ」

宏「先輩、それはないでしょう。本署からの応援は、どうなっているんですか」

先輩の声「本署も、事件が多すぎてみんな、出払っているらい。じゃーな」
ガチャン。早々と切られる。

宏「先輩、チョット待って下さいよ」
ふくれっ面をする宏。

宏「クソ、辞めてやるー」

そこへ、ドアを無理矢理開けて郵便配達員(21)が入ってくる。
配達員「おっ、宏さん。やっぱりいたな」

宏「おい、勝手に入ってくるなよ。外出中の貼り紙が見えないのかよ」

配達員「居留守を使おうなんて、考えが甘いぜよ。書留でーす。ハンコお願いしまーす」

配達員は、バックから現金書留を取り出しては、宏に手渡した。押印する宏。

宏は、即座に開封した。現金2万円とビール券が10枚入っている。同封の手紙を、黙読し始めた。

男性の声「先日は、大変お世話になりました。ありがとうございます。立て替えていただいた、飲み代と電車賃とタクシー代です。利息をつけてお返し致します」

宏は、「フン」と破棄捨てるようにして、その手紙を丸めた。

その2万円とビール券を、財布の中に入れた。

配達員「こないだは助かったよー。婚約指輪を買う前日に、駐車違反で捕まっちゃって。宏さんが近くを通っていなかったら、キップを切られていたよー」

宏「もう、2度と駐車違反をするなよ。いつまでも、甘くはないからな」

その丸めた手紙を、配達員の胸にポンと投げつけた。
配達員「また、見逃してね」

宏「アホ」
捨てゼリフを残して、そそくさと配達員は立ち去った。