「ちょっと。大恋愛だったんでしょ? 落ち込むとか、涙で目を潤ませるとか、もっとできないわけ? いつも軽いのよ、ナオは」


たまらずそう言うと、ナオはまるで叱られた子犬のように瞳を揺らして口をすぼませる。

何か言い訳があるらしい。


「そんなにキツく言うことないだろ? 俺だって一生懸命に恋をしたんだ、なんか合わない、ってフラれたの、俺のほうなんだけど」

「はいはい、かわいそうだね、ナオは」

「なっ……。まあ、いいや。頼むよ、カナ」

「分かったわよ」


キツく言いすぎてしまったと思っても、あたしは絶対に、謝ってあげたりはしない。

高校2年の12月初旬。

入学してからわずか1年と半年たらずで、彼女の数が両手では足りないほどになっているチャランポランなナオになんか、謝る言葉はない。

深く息を吸って、呼吸と心を整えると、今か今かと待っている顔のナオの目を見て、言う。


「ナオには、いつかきっとナオの全部を好きになってくれる女の子が現れる。大丈夫。それまでは、あたしがそばにいるよ」


これは、ナオがフラれたときに決まってあたしにねだる、ナオ曰く、魔法の言葉らしい。