「ケーキ、予約しとくわ。彼女と食べるから、そのつもりで美味いのを作ってくれ」

「はいはい」


クリスマスまでには、まだ10日もあるのに、今から予約なんてして大丈夫? とは、思ったとしても、そこまではさすがに言わない。

ナオのためではなく、新カノさんのためだ。

これ以上、余計なことを言って、変にナオに、頑張らなくちゃ、とプレッシャーをかけてしまったら、それは見事に空回りをするだろうし、そのとばっちりを受けるのは新カノさんだ。

そうなっては、かわいそうすぎる。

今度こそ教室を出て行ったナオのそばには、新カノさんらしき女の子が健気にも寄り添っていて、せめてクリスマスが終わるまではラブラブっとしていてくれよ、と思うあたしだった。





放課後。

今日こそ納得のいくケーキを作ろう、と意気込み、部活へ行くと、言い合いとまではいかないまでも、何やら揉め事らしき声が家庭科室から聞こえてきて、あたしは思わず、開ける寸前だったドアを開けそびれてしまった。

ドアの前に立って初めて、あれ、揉め事? と気づいたくらい、くぐもった感じで聞こえてくる声なもので、中にいる人を的確に言い当てることは難しいのだけれど、なんとなく、莉乃とナオの声なような気が……しないでもない。