散々迷った挙句、山側を選んだ香織に部屋を譲ると、クローゼットの中身を取り出し、反対側の部屋へとひとり移動する。

香織が荷物を解くのを待つ間、ソファーで仕事の資料に目を通しながらも、気がつけば、再会してからの僅かな時間で、心の中をいっぱいに占めてしまった彼女の表情を何度も反芻するように思い返していた。


桜色に染まる肌


無防備に預けられた柔らかな身体


鼻腔を擽る甘い香り


浮かんでは消えていく香織の姿が僕の心を掻き乱し、思いは苦しいほどに募っていく。

一向に頭に入らない資料を見ることを諦めテーブルに投げ出すと、ソファーに寝そべり窓の外へ視線を流した。