香織が落ち着いたのを確認してから、安田さんの止血を始める。
相変わらず森は気になったが、今は二人の処置を優先することにした。
携帯のライトを掲げ、刺された位置を確認するが、ベッタリと血に染まった包帯の上からでは、怪我も出血している位置も判らない。
まずは包帯を切って傷を確認しようと先ほどのナイフを構えた、そのときだった。
香織がハッと目を開き周囲を見渡した。
そして隣で倒れている安田さんを見つけると、怪我など忘れたよう飛び起き、胸に縋りついた。
「い…や…いや…いやっ、いやああぁぁぁーっ!
お父さん、お父さんっ。嫌よ、死んじゃいやーっ!」
安田さんを揺さぶり号泣する香織に言葉を失う。
彼女のこんなにも取り乱した姿は初めてだった。
封印していた記憶が戻ったときも、出生の秘密を知ったときも、確かに感情的ではあったが、こんな風にパニックになったり慟哭することはなかったのに…。
安田さんが死んだと思い込んだ彼女は、慢心の力で僕の制止を振り切ろうとする。
暴れる香織を強く抱きしめ、僕の声が耳に届くまで必死で諭し続けた。
「香織、香織、落ち着くんだ。
安田さんはまだ生きている。
そんなに揺さぶってはダメだ」
ようやく僕の声に反応を示すまでどのくらいかかっただろう。
僅か数分、いや、数十秒だったのかもしれないが
とても…とても長く感じた。



