「…………」
小さな呻き声が張り詰めた空気を緩めた。
驚いて振り返ると、香織が薄っすらと目を開いた所だった。
茂みの気配が気になったが、香織を放り出すことはできず、意識だけはそこにおきながら、彼女の傍に跪(ひざまず)き声をかけた。
香織は焦点の合わない瞳をぼんやり泳がせ周囲を見回していたが、僕を見つけるとそこで視線を止めた。
「…れ…ん……く…」
「起き上がってはダメだ。
頭を打っている可能性もあるから、救急車が来るまで安静にしていて」
痛みを押して起き上がろうとする香織に慌てて手を貸し、再び横たえる。
香織は黙って頷いただけで、放心したまま何も無い空間を見詰めている。その瞳は虚ろで、いつもの輝きはなかった。
まだ混乱しているのか、自分の居る場所も、何故怪我をしているのかも理解できていないらしい。
僅か二日。その間に彼女は二度も立て続けに死の恐怖に直面したのだ。
しかも酷い暴力を受けて、一時的に記憶が混乱している。
その心は身体同様に深く傷つき怯えているはずだ。
香織がどんなに我慢強くても、まだ17歳の普通の女子高生だ。
この状況下で平静を保てるとは思えなかった。
「傍にいるよ。…大丈夫だ。安心して少し休んでおいで」
少しでも恐怖から遠ざけたくて、そっと髪に触れ、安心させるように撫でると、香織は唇の端を少し上げ、力なく微笑んで瞳を閉じた。
こんな状況下でも微笑もうとする彼女の強さが痛々しかった。



