「小村…絶対に赦さない。
…どこへ逃げようと…きっと見つけ出してやる」
香織の傍に落ちているナイフを手に取ると、それが小村であるかのように見詰めて言った。
ナイフは血にまみれても尚、何かを求めるように冷たく硬質の輝きを放っている。
吸い上げた血を賛美しているようにも、更なる血を欲しているようにも見えた。
このナイフを収める鞘は、お前の胸だー…
どす黒い感情がドクンと血を騒がせ、気持ちを昂らせる。
紀之さんに掴みかかったときにも感じたどこまでも冷たい怒り。
その数倍にも膨れ上がった残酷な感情が制御できない。
これが一族の狂った血なのかもしれないと、遠くで自分を分析するもう一人の自分が居た。
復讐なんて間違っている。
そんなこと解かっているけれど、押さえがたい何かが自分の深いところで目覚めていくのが解かった。
その時、茂みがガサリと動いた。
気配を感じた気がして闇に目を凝らす。
父の命を受けた者が到着したのか。
それとも…小村か?
その場が緊張に包まれた。
瀕死の安田さんと未だ意識の戻らない香織を動かすことはできない。
何としても僕が二人を護らなければ…。
ナイフを構え、強く握り締める。
茂みから目を離すことなく、静かに足を踏み出した。



