【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~



『彼女が大切なら絶対に離れるな。命を懸けても必ず護ってやれよ』


父親の形見だというバイクのキーを投げてよこした、あの人の顔が浮かんだ。

冷静な判断。計算された動き。冷たい物言いをするがその言葉にの裏は温かいものがあり、彼の人柄を窺い知ることができる。

とても心の強い人だと思った。

彼のような人ならば僕の父のように、多くのものを護れるのかもしれない。


―Tatsuya.Sー


ハンカチの刺繍の名を心の中で復唱する。

僕も…彼のようになりたいと思った。

これまでにも強くなりたいと思ったことは何度もある。

だけど、浅井グループを統べる技量のある男になりたいと思ったのは初めてだった。

瞼の裏に香織の笑顔が浮かぶ。

ー会いたい。

今すぐに無事を確かめて、香織を抱きしめたかった。

動かない身体のもどかしさに唇を強く噛み締める。

ー強く、なりたい!

ギリッと音がして口内に鉄の味が広がった。

痺れるような痛みが走り、その瞬間身体の拘束が解けた。

停止していた時間が動き出すと同時に、血の滾るような爆発的な感情が込み上げてくる。


「香織――っ!」


全身が沸き立つような感覚を抑えることができず、声の限りに香織の名を叫ぶと一目散に走り出した。