【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~


肩からダラリと腕に垂れ下がった袖が木々の枝に絡むのが邪魔で、力任せに引きちぎる。

バリッと鈍い音がしたのと、女の悲鳴が木々を震わせたのは、ほぼ同時だった。

ビクリと身体が硬直し、足が止まった。

聞き間違いであって欲しいと願いながら、全神経を限界値まで研ぎ澄まし声を追う。

だがその願いを打ち消すように、猛獣の咆哮のような男の声が闇夜に轟いた。

喉から搾り出されるような長い叫びは徐々に闇に溶けてゆく。

後には恐ろしいほどの静寂が訪れた。



心臓が凍るような冷たい感覚に、頭が真っ白になり時間が止まった。



冷静にならなければと自分に言い聞かせ、必死に頭の中を整理する。

悲鳴は確かに香織のものだった。状況から考えて男の声は安田さんに間違い無いだろう。

最悪の状況が脳裏を過ぎり、一刻も早く二人の無事を確かめなければと思った。

だが香織の悲鳴でショック状態に陥った僕は、極度の興奮に身体が震えて指一本動かすこともできなかった。

「く…そっ! どうして…っ!?」

焦れば焦るほど、身体が硬直して金縛りに遭ったように動けなくなっていく。

精神力の弱さを突きつけられ、未熟な自分を呪った。