紀之さんが言いかけたとおり、尾田の死は自殺ではなかったのだろう。

経営の悪化も、娘の死に泥を塗った尾田を許さなかった瀬名が追い詰めたのかもしれない。

安田さんは尾田家の崩壊をどんな思いで見つめていたのだろうか。

少しは無念を晴らすことが出来たのだろうか。

それとも…その手で尾田を追い詰めたかったと思ったのだろうか。

こうしている間も香織の無事だけを祈り、この別荘へと夜の闇を彷徨っているのだろうか。

深手を負い暗闇の山中に身を隠し、今にも倒れそうによろけながら歩いている姿が脳裏に浮かんだ。


「とにかく安田さんを捜そう。彼が鵺に狙われて逃げているならば危険だ。
それにあの怪我で動き回ったりしたら…」

僕の声にそれまで放心していた香織が突然立ち上がり駆け出した。

予測しなかった行動に油断していた僕は、瞬時に動けず遅れを取った。
その隙に彼女はテラスへ続くガラスドアを開け放ち、室内履きのまま外へと飛び出していってしまった。

「香織っ! クソッ、どこに小村がいるか分からないってのに。
父さん警備を回して香織を援護させてくれ。
きっと安田さんを捜しに行くつもりだ」