僕が話し終えた後も、誰も口を開く者はいなかった。


香織と百合子さんの出生の秘密。

まるで映画か小説のような事実を皆が納得するには時間を要するようだった。

榊 俊弥の真の目的。

それはもう一人の娘、百合子さんの奪還だったと考えられる。

その為に彼は危険を冒して一族に潜り込み、その機会を窺っていたのだと考えれば全ての疑問は解き明かされる。

だが、僕が香織と出逢って事情が変わった。

彼が僕の恋人を自分の娘だと知ったのは、香織の迎えを頼んだ住所を見たときが初めてだったに違いない。

あの夜のいつになく動揺した様子に今だからこそ合点がいく。知人の住所の近くなので驚いたとそれらしい言い訳で誤魔化してはいたが、あれは知人などではなく実家の住所を見た為の動揺だったのだ。

あの日彼はどんな思いで香織を迎えに行ったのだろう。

父と名乗ることも出来ず、どんな気持ちで香織を見守り続けたのだろう。

同じような気持ちで、ずっと百合子さんを遠くから見守っていたのだろうか。

春日から監視を命じられ、十数年間母の姿を見続けた彼は、どんな思いで職務をこなしていたのだろう。

一族に縛られる女性の姿を百合子さんを重ね、一日も早く彼女を解放する日を夢見ていたのでは無いだろうか。

榊 俊弥の心境を思うと、言葉に表しがたい気持ちになった。