ほとぼりの冷めた頃に香織を迎えに行き、百合絵が望んだとおり一族から離れ、静かな土地で、二人で暮らそうと思っていた。
だが、俺はどうしても百合絵の復讐を遂げずにそれをすることは出来なかった。
香織に危害が及ぶことを恐れ、里子に出し、俺との繋がりを絶って欲しいと母に託し姿を消した。
奴らに復讐をする為に、俺は榊 俊弥として生きた全てを捨てなければならなかったのだ。
俺は、百合絵を裏切り死に追いやった者とされ、一族に追われ始めた。
だがむしろそれは、自分の存在を消し別人に生まれ変わろうとしていた俺にとって、ある意味都合の良い形となった。
俺は『鵺』に追い詰められ、冬の荒波に消えた。
荒れ狂う波に沈んだ俺を、誰も生還できるとは思わなかったのだろう。
俺は死んだものとされ、以降一族の追っ手がかかることは無くなった。
それから俺は整形手術を繰り返し、声を潰した。
新しい戸籍を手に入れ他人に成りすまし、一族の使用人として春日家に潜り込む事に成功した。
春日が俺を殺そうとした『鵺』を操る一族だという事を、闇の情報より知り得たからだ。
春日の暗殺組織に潜り込み、尾田と一族の情報を集め復讐を遂げる。
それが俺の計画だった。



