それから香織を母に預けた俺は、再び彼女に会いに戻った。
彼女の亡骸は、尾田家ではなく実家の瀬名家に引き取られていた。
瀬名家は彼女の死を自殺ではなく事故死として封印し、数日後ごく近い身内だけで彼女は密葬された。
俺は遠くからそれを見守っていた。
彼女が荼毘(だび)に付され、小さな箱となったとき、俺はようやくおかしな事に気がついた。
百合絵と共にあるはずの小さな箱が無いのだ。
百合絵の腕の中で冷たくなった小さな命。
最初で最後の父親として贈った別れのキスの柔らかく冷たい頬の感触は今も唇に残っている。
あの子の遺骨がない。
どういう事だ?



