抱きしめる身体が力を失い、ズシリと重みを増していく。
信じたくない。
だが、その身体に既に彼女の魂が無い事を認めないわけにはいかなかった。
まだ温かく柔らかい唇に最後のキスを贈り、彼女を横たえる。
その腕には彼女が手にかけた赤ん坊がしっかりと抱かれていた。
一度も抱くことが叶わなかった我が子。
その柔らかな頬に触れる最初で最後の別れのキス。
胸が押しつぶされそうに苦しくて、涙が込み上げてくる。
だが泣いている暇はなかった。
傍らでか細く泣くもう一人の娘を抱き上げ、百合絵の香りの残るショールで包むと直ぐに別荘を後にした。
せめてこの子だけは―…
か細い泣き声は更に小さくなっていく。
死の間際に託された、愛しい人の最後の願い。
彼女の忘れ形見を護る為、俺は逃げた。
一族の手の及ばない安全な場所へと…
百合絵の最後の願いを叶える為に―…。



