彼女を抱き上げ死の淵から呼び戻そうと必死に呼びかけると、薄っすらと目を開け『ごめんなさい』と呟いた。

「百合絵…どうしてこんなことを…」

彼女は力の入らない指で、足元に落ちた手紙を指差すと涙を流した。

それは俺の名前で彼女に当てた手紙だった。

上司に寝返り百合絵を捨てたと思わせる内容に絶望した彼女は、発作的に我が子の首を絞めて、心中を図ったのだと悟った。

「ショックで…どうして…いいか…分からなくて…赤ちゃんと…死のうと思った…の…。気がついたら…この子は…呼吸をして…なかった…。……でも…どうしても…二人は…殺せなく…て…」

テーブルの上の泣き声は、徐々に弱くなっていく。
このままでは唯一残された命までが死んでしまうのは確実だった。

「ごめん…なさ…俊弥…。手紙を…信じた……私を…許し…」

「遅くなってすまなかった。不安な思いをさせてしまって…。
クソッ!全部バレていたのか。
こんなことならもっと早くお前を連れて逃げるべきだった。
せめて俺がもっと早く来ていたら…」

「いいの…来てくれた…だけで…私は幸せに…逝くことが…できる…から…」

「百合絵っ! 逝くなっ! 俺をおいて逝くなっ! 愛している。一緒に生きようと約束しただろう?」

「……一緒に…生きたかった…でももう…あなたが…見えない…」

「ゆ…りえ…」