夜の闇が森を覆いつくす。


銀に輝く月が枝の間からほのかに零す僅かな月明かりを頼りに、俺は山道を必死に走っていた。

刺すような激痛が腹部を駆け抜ける。

傷口が開き、血が伝い始めるのを感じながらも、足を止めることはできなかった。

一歩足を出すたびによろける身体を気力で支え、引き攣る痛みに耐えながら別荘へと向かう。

意識が混沌とする中、周囲の景色が徐々に変化していった。

グラリと景色が歪み、辺りが真っ白に染まる。

意識が徐々に現実から離れようとする。

力が抜け倒れそうになるのを必死で堪え、顔を上げたとき…

目の前には過去の哀しい日の風景が広がっていた。


真夏だというのに、辺りには降り始めた雪が、薄く積もり始めている。

月明かりだけが光源だったはずの闇が、白く染まった雪の反射で眩しくさえ感じされた。


ああ…俺は夢を見ているのだ。

思い出したくない哀しい日の夢を…

犯した罪を懺悔するように繰り返す悪夢…

苦しくて…

哀しくて…

それでも愛しくてどうしても忘れられない。

たとえ悪夢でもいい…

それでも…彼女に逢いたい。


意識は徐々に白銀の世界へと堕ちていった―…