「紀之さんは香織の事情を知らないし、他の皆は紀之さんの怒っている意味が解らないと思う。
まずは紀之さんの誤解を解かないといけないんだけど…
紀之さん、あなたは榊 俊弥という人物を誤解をしている。
あの人は誰も裏切っていない。
誰かを捨ててもいない。
だた愛する人の最後の願いを叶えようとしただけなんだ」

「…誤解? 恋人を見捨てて逃げた男が裏切っていない?
愛する人って姫の母親だろう?
その人の願いを叶えるためなら百合子と母親は犠牲になっても良かったっていうのか?」

「紀之落ち着け! 廉の話を最後まで聞け」

怒りの静まらない紀之さんを、父さんが一括した。

流石に紀之さんも浅井家当主には口答えできる立場ではなく、不満げに口を噤んだ。

「最初は単に何処か符合する似たような話だと思っていた。
だけど…紀之さんが榊 俊弥の名前を知っていたことと、彼が『鵺』によって殺されたと聞いて確信したんだ。
…確かにこれは僕の仮説で確証はない。
だがそう考えることで全て理屈が通る。
紀之さんには納得できない部分があるかもしれないけれど、どうか感情的にならずに冷静に聞いて欲しいんだ」

僕は一旦言葉を切って、紀之さんの様子を窺った。

彼は必死に冷静になろうと努めているようだった。

全員の視線が僕に集中し、次の言葉を待っている。

息苦しさに声が詰まりそうになるのをやり過ごす為、大きく息を吸い込んで言葉を繋いだ。