「榊……榊 俊弥だと? どういう事だ? 安田が…榊だって?」
それまで放心したように話を聞いていた紀之さんが、搾り出すような声で呟いた。
「何故あいつが生きている?
榊はあの後『鵺』の手に掛かって死んだと聞いているぞ?
それに…姫の父親ってどういう事だ、廉っ!」
思わず息を呑む程の怒気を帯びた顔付きは、ただ事ではなかった。
「あの野郎、他に女がいたのか?
だからあいつは裏切ったのか?
しかも子供まで…クソッ!」
榊は『鵺』の手に掛かって死んだと思われていた?
だったら俊弥さんの死と同時に香織の存在を知る者はいなくなったという事だ。
香織が一族に追われる可能性はほぼ無くなったと言って良いだろう。
それでもあえて、姿形を変えてまで一族に入り込まなければならなかった理由があるとしたら…。
考えられる可能性は一つしかなかった。
頭の中で組み立てていた形がピタリと固まっていく。
ツギハギの仮説が、深い眠りから覚めた真実へと変化してゆく。
全身の毛が逆立つような感覚だった。



