【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~


安田さんが失踪した香織の父親?

おばあさんの言葉を理解するまで、随分とかかった気がする。

それは僕だけではなかったようだ。

父も何を言われたのか解らないといった顔で固まっているし、秋山夫妻も唖然としている。

香織にいたっては、驚きの余り涙も止まり、声すら出ない様子でおばあさんを見つめていた。

そして、意外な事に紀之さんも顔色を変え、おばあさんを凝視していた。

「香織を迎えに来たあの日、俊弥は顔を変え『安田』と名乗って他人として私に接してきました。
私も最初は気付きませんでした。
でも玄関から香織の荷物を運び終えて戻るとき、彼は迷わず表玄関の脇にある、家人専用の玄関へと向かったのです。
まるで香織がそこから出かけることを知っていたように…。
何度も家に来たことがあるかのような自然な行動に、凄く違和感を感じて彼を引き止めました。
何故か、このまま彼を行かせてはいけない気がしたのです。母親のカンだったのかもしれませんね」

「そんな…。安田が…香織の父親? だったら何故香織を…?」

「香織ちゃんを護る為に周囲を欺いた。…とは考えられないか? 彼には幾つかの顔があるようだな」

父の言葉でハッとした。

幾つかの顔があるといえば、確かにそうだ。