苛立ち、悲しみ、怒り…それらの感情が混ざり、どす黒い凶器となり牙をむく。
気がつくと声を荒げておばあさんに噛み付いていた。
「香織の無事を確かめて護る?
何故そう言い切れるのです?
香織を差し出して自分の身を護る為だとは思わないのですか?
おばあさんが安田と会ったのは、香織を迎えに行ったあの日が初めてでしょう?
彼の事を知りもしないのに、命を懸けて護ると言ったくらいで、どうしてそこまで信頼できるんですか?」
激昂する僕に、おばあさんは宥めるような穏やかな口調で答えた。
「…安田と名乗っている男性を…私はここにいる誰よりも良く知っているから…」
「な…に?」
その瞬間、思考がフリーズしたのは、多分僕だけじゃなかったと思う。
驚く周囲の反応を他所に、微笑むおばあさんは、何処か幸せそうな色さえ浮かべていた。
一連の様々な出来事に止めを刺すような衝撃。
おばあさんの口の動きが歪み、その声は時差が生じたように遅れて耳に届いた。
「…彼は…香織の父親、榊 俊弥なのです」
完全にショートした僕の思考回路は、その意味をすぐには理解する事が出来なかった。



