香織のおばあさんは真っ直ぐに父を見て続けた。
「私は彼を信じています。
香織を迎えに来たあの日、彼は命に代えても香織を護ってくれると約束したんです」
「榊さん。あなたには私達の話している内容がどれほど危険を含むものかお判りにならないかもしれません。
ですが、先ほど廉も言いましたが、安田は私達を裏切っている可能性が高いのです。姿をくらましているということであれば警戒しないわけには…」
必死に説得しようとする父を拒むように、おばあさんにはビッと右手をかざしその言葉を遮った。
有無を言わさぬ雰囲気に、あの父が思わず言葉を呑み込み口を噤んだ。
「廉君が香織を護って倒れた立場だったら、目覚めて一番最初に何をするかしら?」
「え…? 僕ならまず香織の無事を確かめますが……まさか?」
「彼もきっとそうするでしょうね。
香織が無事だったからこそ自分が消されかけたのだと彼は理解するでしょう。彼が次に取る行動は、香織の無事を確かめて護ること…。
彼はおそらくここへ来るでしょう。でもそれは香織を傷つける為ではありません」
それまでの穏やかで静かな雰囲気が別人のような威圧感で、キッパリと言い放った。
彼女が何故そうまで安田を信頼できるのか、僕には解らなかった。
香織が再び狙われている事実に、焦りや苛立ちが募る一方なのに、おばあさんは安田を信じている。
その姿が、彼を信じきっていた昨日までの自分に重なって、裏切られ傷ついた心が悲鳴を上げた。



