張り詰めた空気が息苦しいほどに纏わりつく。
「安田さんが…あたしを? どうして?」
「彼は僕らを裏切って、君が襲われる手引きをしたんだ。
まだどこかで信じたい気持ちは残っていたけれど…逃げたって事は、やはり彼が裏切っていたということだろうね」
「嘘…そんな…」
見開かれた瞳から、大粒の真珠が再び溢れ出す。
香織は今日一日でどのくらいの涙を流したんだろうと思うと、次々に彼女を打ちのめす現実が恨めしかった。
父がセキュリティを強化するよう電話で告げると、数名のボディガードが直ぐに駆けつけた。
めったなことでボディガードを呼びつけることの無い父がここまでするのは、やはり『鵺』が動いていることが相当ショックなのだろう。
「秋山さん、榊さん、彼らに部屋の警護をさせますのでご安心ください。
色々ご迷惑をおかけした上に、更に不安な思いをさせて申し訳ありません。
安田は必ず私達が見つけますので…」
「浅井さん、その心配は不要です」
父の言葉をピシャリと跳ね除ける凛とした声が部屋を震わせた。



