その時、玄関の呼び鈴が鳴り、暫くして廊下が騒がしくなった。
使用人だけでは対処できない事態らしいと判断した父は、様子を見てくると言い残し部屋を出て行った。
まさか父や僕がいる別荘に、再び香織を狙う者が乗り込んで来るとは考え難いが、警戒するに越したことは無い。
誰が来ても即座に防御できるように、全神経を集中してドアの前で待機した。
暫くして父は難しい顔をして戻ってきた。
「香織ちゃんを心配して来たらしい。彼女の前でケンカするなよ?」
僕をチラリと見て、そう小声で囁くと、廊下に立つ人物へ視線を向ける。
「紀之さん? なぜあなたがここに?」
それまで考えていた内容が内容だっただけに、必要以上に動揺し声を荒げてしまった。
紀之さんも、僕の余りの驚き方にギョッとした表情を見せた。
「なっ…なんだよ? ちょっと報告ついでに香織姫の様子を見に来たんだよ。悪戯電話の効果はあったようだな。感謝しろよ」
「悪戯電話? …まさか、あの電車が遅れた原因の悪戯電話って…紀之さんが?」
「まあな、走って駅まで行ったって間に合わないだろうからな。
少しでも駅に足止めできればと思ったんだが…大変だったらしいな。姫は大丈夫なのか?」
紀之さんの痛ましげな視線を受け会釈を返す香織に、ホッと息を漏らす。
そんな仕草に、彼の本当の優しさを垣間見た気がした。



