【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~


静まり返る部屋に、秋山夫人の泣き声だけが響く。

余りにも哀しい恋の結末に誰もが口を開くことが出来なかった。

秋山氏は妻の肩を引き寄せ沈痛な面持ちで義母を見つめていた。

「榊さん。その『一族』というのは、泉原を筆頭とする私達一族の事を仰っているのでしょうか?」

長い沈黙を破ったのは、僕の父だった。

おばあさんは父を見つめ、深い溜息を吐いた。

「ええ…まるで何かに呼び寄せられるように香織は一族の男性に恋をして、父親と同じ苦しい道を選ぼうとしています。
…因縁というのは恐ろしいものですね」

「待ってください。
それが事実なら16~7年前に自殺した女性がいたことになりますが、一族の中にはそんな事実も噂も聞いたことはありません」

困惑する父親を他所に、僕はこれまでの事を考え直していた。

おばあさんの話に何処か符合するもう一つの悲話を僕は知っている。

俊弥さんに裏切られたと誤解をして自ら命を絶った香織の母親と、愛人に裏切られ子供と心中を図った一族出身の女性。

考えれば考えるほど二人の姿が重なっていく。

もしかして同一人物なのだろうか…。