【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~


別荘までは車で約1時間の距離だった。

だが、30分も行かないうちに車は異音を立て始め、ブレーキが利かなくなった。
俊弥の車には予め細工をされていたのだ。
ブレーキの利かない車は山道を暴走し、別荘まであと20㎞の所で事故を起こしてしまった。


その頃、彼女は陣痛に堪えながら、なかなか来ない俊弥を待っていた。

見張りの姿が見えない今しか逃げるチャンスは無いと解っているのに、俊弥は一向に現れる様子は無い。
陣痛の感覚が短くなる前に、逃げなくてはと気持ちばかりが焦せる。

そのとき、生暖かい感覚が足を伝っていった。

破水したのだ。

時間が無いと判断した彼女は、とりあえず独りで逃げることを決意した。

だがドアは外から施錠されており開けることは出来なかった。

見張りの女性達が一人で出産する彼女に同情し、逃亡に手を貸すことを恐れた夫により、陣痛が始まった時点で全員が別荘から引き揚げるよう命令を受けていたのだ。

逃げ出すことも出来ず、どんどん間隔が短くなる中、彼女は一人で陣痛に耐え続けた。