ようやく落ち着き始めた香織を再び動揺させるおばあさんの発言。

これには秋山夫妻も慌てたようだ。

情緒不安定な香織に父親の話をして更に追い詰めてどうするのかと…

また以前のように発作を起こしたり言葉を失ったりしたらどうするのかと…

ご両親は香織を案じ、おばあさんに非難の視線を向けた。

目の前の香織はまだ放心状態で、父親の話を冷静に聞き受け入れるには、無理があると思うのは当然だろう。


しかし香織は気丈にもそれを望んだ。

何故父は姿を消したのか

何故迎えに来なかったのか

何故愛してくれなかったのか

その答えを模索し苦しむ香織にとって、『捨てたわけじゃない』という言葉は救いだったのかもしれない。

「これまで私は香織に俊弥の事を隠し、偽る事ばかりを考えてきたわ。
香織にだけじゃなく、典香にも真実を告げていなかった。
いいえ…正確には、あまりにも真実が重くて告げられなかったの。
知らないほうが幸せだと信じて、一生私の胸に収めておくつもりでいた…。
でも、決心しました。香織はいろんな意味でショックを受けるかもしれないけれど、真実の中に父親の愛情があったと知ることで、きっと俊弥の事も、私に託された理由も受け入れることが出来るでしょう」