「時には優しく見守り、時には盾となり護り、時には…強い意志を持って憎まれる役を買って出なくちゃいけないときもある。
…お父さんが『義務』と言ったのは、君を本当に愛しているからで、決して君の本当のお父さんへの義理立てでも、君が実子でないことへの後ろめたさからでもないんだ」

「香織…僕もそう思うよ。僕はたとえ血が繋がっていなくても、育ててくれた母さんが愛してくれている事を感じるし、他人だと思ったことは無い。
香織のご両親はこんなにも心配して、駆けつけてくれたじゃないか。
それだけで、どれほど香織の事を愛してくれてるか解るはずだろう?
哀しい過去を思い出して不安になるのは解るよ。だけど、こんなときだからこそ、家族の愛情を信じないといけないんじゃない?
幼い頃からずっと、誰より君を愛して大切に見守ってくれたのは、失踪したお父さんじゃなく、今ここにいるご両親だろう?」

僕の胸に顔を埋め嗚咽しながらも、香織はコクリと頷いた。

香織の嗚咽がすすり泣きに変わり、やがて静かに収まっていく。

だれも言葉を交わす事無く、香織が落ち着くのを静かに待った。

今夜はもう休ませたほうが良いと判断し顔を上げると、父と視線がぶつかった。

どうやら同じ考えだったらしく、瞬時に僕の意図を察して一つ頷き、口を開こうとした。

その時…

それまで黙って見ていた香織のおばあさんが口を開いた。

「香織…俊弥(しゅんや)はあなたを捨てたわけじゃないのよ」