「君のお父さんが『義務』と言ったのは、決して君の思っているような理由からじゃないよ。
これは親になってみないと解らないかもしれないけれど…親というものは本当に馬鹿な生き物でね、我が子のためならどんな苦労も厭わないし、愛する子供が幸せになる為なら、どんな馬鹿な事も、無茶な事も身体を張って出来るものなんだ。
…だけど可愛いからと言って、何もかもをただ許すのは愛情ではない事くらい頭の良い君の事だから解るだろう?」

そこまで言うと一旦息を継ぎ、ゆっくりと足を組み替え、僕へと視線を移した。

「私には同じ親として、君のお父さんの気持ちは良く解るよ。
廉には悪いが私が君の父親でも、こんな危険な環境にいる男と付き合いをさせたいと思わない。
『好き』という感情でどんなことにも耐えられると思っているかもしれないが、その気持ちだけで全てを補える程、世の中簡単じゃない。
むしろ苦境が続けば続くほど、愛情が薄れる事だってあるんだ。
感情的になっている君にそれを正しく伝え、冷静に考える力を与えること。そしてその上で君が見出した幸せに導くことが、子供を見守り道を示す親としての『義務』なんだよ。解るかい?」

香織の膝の上でギュッと握られたこぶしの上に、ポタポタと涙の粒が落ちて砕けていく。

今にも崩れそうな細い肩が痛々しくて、回した手にグッと力を込めた。