【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~


「…香織ちゃん、それは違うと思うよ?」

香織をたしなめるような静かな声に、驚いて顔を上げる。

声の主は僕の父だった。

「本当の親子だとか、血の繋がりがあるかどうかなんて、『家族』の形には関係ないんだよ。
廉と雪だって血の繋がりはない。それでも彼女は母親として廉を大切に思っているし、廉は雪を家族として受け入れている。
香織ちゃんはずっとご両親を本当の親だと思っていたんだろう?
これまでご両親の愛情を疑ったことはあった?
養女だと知ったとたん両親の愛情を疑うなんて…そんなのおかしいと思うんだ」

まるで学校の講堂で挨拶をするときのように、静かに語りかける口調。

『僕の父』でも『浅井グループ当主』でもなく、彼女も良く知る『理事長』の顔だった。

「君は頭の良い子だからね、落ち着けばちゃんと全てを受け止めることが出来るはずだよ?
ただ…ちょっとショックを受けたんだね。
真実を思い出した直後だけに、お父さんの『義務』という言葉に」

それまでの人形のような冷たい表情が、苦しげに歪んだ。

ギュッと瞳を閉じ、俯いてしまった香織の頬をハラハラと涙が伝っていった。