「何だって!どういう事?」
「村田さんは、あたしに会いたいという雇い主の所へ連れて行こうとしたの。
あたしはそれに抵抗してあんな事になってしまったのだけど…」
「直接君に会おうとした…?」
「…ええ。その人の名前は聞けなかったけど、村田さんは『あの方は時間に遅れる事を酷く嫌う』と言って、電車が遅れて予定が狂った事にイライラしていたわ」
初めて彼女自身から語られた一連の出来事に改めて震えるほどの怒りが込み上げてきた。
その雇い主というのは春日のおじい様にほぼ間違いは無いだろう。あの人が時間に厳しいのは有名な話だ。
だが…解らない。それが事実なら、目的は何だ?
僕らが別れた事は香織を帰すことを知った時点でとっくに村田が報告していただろうに…
それだけでは満足できない何かがあったというのか?
「…何故君と会う必要があるんだろう。
単に僕の彼女で、一族結婚の妨げになる存在だから二度と近寄らないように仕向けたいのだと思っていたけど…」
もしかしたら、香織の言うとおり彼女自身に理由があるんだろうか。と、疑問を投げかけるように父に視線を向ける。
父も解らないといった仕草で頭を振ると、眉間に皺を寄せ考え込んでしまった。



