【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~


応接室を開けると、中にいた5人の視線がいっせいに僕達に集まった。

香織の両親の秋山 祐成(ゆうせい)氏と典香(のりか)夫人は面識があるが、香織のおばあさんは初対面だ。

おばあさんの榊 六香(さかき りっか)さんは、着物を上品に着こなす老婦人で、まだ50代だと言われても通用するほど若々しく見えた。

秋山夫人が香織に駆け寄り抱きしめると、『無事で良かった』と涙を流した。

改めて、一族の争いに関係のない香織の家族を巻き込み、苦しめてしまったのだと深い罪悪感に見舞われる。

香織は泣くことも笑うこともせず、ただ『大丈夫だから』と答えると、僕に救いを求めるように視線を彷徨わせた。

あんなことがあって、しかも久しぶりに両親に会えたというのに、なぜか困惑した表情に腑に落ちないものを感じる。

それは僕の父も同じだったらしい。

『ご両親にも泊まって頂くので、今夜は家族でゆっくりと過ごしなさい』と香織に言葉を掛けてから、仕草で僕にエスコートするよう促した。

この二日間の出来事について、大まかなことは香織の家族にも既に話してあるらしく、全員が一様に硬い表情をしている。

部屋の中には張り詰めた空気が漂い、緊張した視線が僕達に注がれていることが息苦しかった。