【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~


応接室の前で、一旦立ち止まると香織に向き直る。

香織は先ほどよりはずっと顔色が良く、プールに飛び込む前ほど、思いつめている様子もなかった。

家族に会わせる前に、少し落ち着いてくれたことにホッとする。

あの状態の彼女を見たら、ご両親はきっと無理やりにでも連れ帰ると言うだろう。

いや、こんな事故の後だ。

ご両親が香織を連れて帰りたいと思うのは当然だと思う。

僕にそれを止める権限はない。

だけどこんな形で離れるなんて絶対にしたくない。

ドアを開けたら引き裂かれてしまうような不安を前に、ノブに手をかけたまま、なかなか動くことが出来ない。

固まったままの僕を見て、香織はスッと手を伸ばした。

ノブを握ったまま硬直している僕の手に、優しく自分の手を添える。

それだけで、不安が嘘のように薄れていった。