応接室の前で、一旦立ち止まると香織に向き直る。
香織は先ほどよりはずっと顔色が良く、プールに飛び込む前ほど、思いつめている様子もなかった。
家族に会わせる前に、少し落ち着いてくれたことにホッとする。
あの状態の彼女を見たら、ご両親はきっと無理やりにでも連れ帰ると言うだろう。
いや、こんな事故の後だ。
ご両親が香織を連れて帰りたいと思うのは当然だと思う。
僕にそれを止める権限はない。
だけどこんな形で離れるなんて絶対にしたくない。
ドアを開けたら引き裂かれてしまうような不安を前に、ノブに手をかけたまま、なかなか動くことが出来ない。
固まったままの僕を見て、香織はスッと手を伸ばした。
ノブを握ったまま硬直している僕の手に、優しく自分の手を添える。
それだけで、不安が嘘のように薄れていった。



