「…ったく、この部屋に隠しカメラでも置いてるんじゃないだろうな?
タイミングよすぎ」
ボヤキながら振り返ると、大音量のおかげで全て聞こえたらしく、既に香織はバスローブを羽織り立ち上がろうとしていた。
頬を染めて僕から視線を逸らしているところを見ると、彼女も僕と同じで、素に戻ったことで先ほどまでの感情の暴走に照れを感じているのだろう。
その様子に、まだ多少不安定ではあるが、いつもの香織に戻りつつある事を感じた。
邪魔が入ったことに残念な気持ちが残らないではない。
だが、やはりあのまま抱かなくて良かったのだと、ホッとしている自分がいる。
あのまま結ばれていたら、香織は不安定な感情のままに、大切なものを失ない、僕は彼女のハジメテを綺麗な思い出にしてあげる事も出来なくなるところだった。
きっと二人とも後悔したと思う。
どうかしていた。
僕達はいつだって一つ一つの思い出をとても大切にしてきたのに、二人にとってこんなに大切なことを感情のままに暴走して進めてしまうなんて…
そんなのは僕達らしくない。
もしかしたら、香織も同じ気持ちだったのではないだろうか?
着替えの為に自分の寝室へと戻る香織を目で追いながら、なんとなくそう思った。



