「…え?」
いつもなら絶対にありえない台詞。
涙に潤む切なげな瞳で僕を見上げる色っぽさに眩暈すら覚える。
これが夢なら覚めて欲しい。
いや、覚めないほうがいいのか?
理性と本能で混乱した思考がパニックを起こしていると、香織の声が蜜のように甘く囁いた。
「…だったら…抱いて?」
バクバクとヒートアップする心臓の音は、きっと香織にも聞こえていると思う。
抱きたくないはずがない。
だけど、香織はどう見てもいつもの彼女じゃない。
不安定になっているから温もりが恋しいだけだ。
こんな状態で抱かれたら、後できっと後悔する。
理性はそう叫んでいるのに、彼女を大切にしたい気持ちをねじ伏せても手に入れたい気持ちはどんどん膨らんでいく。
「…ダメだよ…僕はまだ君を抱くわけには…」
「お願い…廉君。信じさせて」
情けないほど上ずった声で搾り出した台詞を奪い、ギュッと抱きついてくる。
彼女を抱きしめたら最後、僕の理性は完全に制御を失ってしまう。
そんな事、解っていたはずなのに…
「廉君は絶対にあたしを捨てないって…信じさせて欲しいの」
切羽詰った香織が狂おしいほどに愛しくて…
細い腰を引き寄せ、深く口づけた。



