そして待ち焦がれた当日。
僕が朝からソワソワしていたのは、モチロン言うまでもない。
父親はそんな僕をやたら冷やかしてくるし、母親は早く香織に会いたいと一緒になって浮き足立っている。
勝手に盛り上がっている二人を無視して車に乗り込むと、その日の仕事を午前中で片付ける為、いつもより1時間以上早く家を出た。
車を降りる際に幼い頃から知っているベテラン運転手の安田さんに、香織が車に弱いことを告げ、気を配るようお願いすると、彼はニヤッと笑った。
「もちろんですよ。
廉さんの大事な方ですから、宝物のように扱わせていただきますよ。
それよりもお約束の時間に戻れるよう、仕事を片付けてくださいね。
彼女に寂しい思いをさせたくは無いでしょう?」
「うん、わかってる。
安田さん、香織を頼みます」
黒塗りのベンツが音も無く走り去っていくのを見送り、数時間後の香織との再会に思いを馳せる。
僕よりも安田さんが先に彼女に会うのは悔しいが、そんな事で拗ねている場合ではない。
とっとと仕事を始めないと、本当に約束の時間に間に合わなくなってしまうと、慌ててオフィスに駆け込んだ。



