香織の肩を掴み、意識を確かめる。
水に煽られ生き物のように揺蕩(たゆた)う髪を掻き分けその表情を覗き込むと、薄っすらと瞳を開く。
ホッとすると共に、その生気のない乾いた瞳にギクリとした。
何も映していないその瞳は、まるで初めて見る人のように僕を見つめていた。
とにかく早く浮上しようと手を取ると、突然僕を突き放し、逃げるように泳ぎだした。
中学のとき水泳部にいたとは聞いていた。
ここへ来てからも何度も一緒に泳いだことはある。
だけど、香織の本気の泳ぎがこれほどだとは思わなかった。
体力作りの為に、ほぼ毎日泳いでいる僕が追いつけない。
しかも彼女は全く息継ぎをしようとしないのだ。
まるで自分を追い詰めるような泳ぎに危機感を感じたときだった。
香織は突然スピードを落とし…
力尽きたようにゆっくりと沈んでいった。



