【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~


香織の肩を掴み、意識を確かめる。

水に煽られ生き物のように揺蕩(たゆた)う髪を掻き分けその表情を覗き込むと、薄っすらと瞳を開く。

ホッとすると共に、その生気のない乾いた瞳にギクリとした。

何も映していないその瞳は、まるで初めて見る人のように僕を見つめていた。

とにかく早く浮上しようと手を取ると、突然僕を突き放し、逃げるように泳ぎだした。

中学のとき水泳部にいたとは聞いていた。

ここへ来てからも何度も一緒に泳いだことはある。

だけど、香織の本気の泳ぎがこれほどだとは思わなかった。

体力作りの為に、ほぼ毎日泳いでいる僕が追いつけない。

しかも彼女は全く息継ぎをしようとしないのだ。

まるで自分を追い詰めるような泳ぎに危機感を感じたときだった。

香織は突然スピードを落とし…

力尽きたようにゆっくりと沈んでいった。